インテリジェンスの世界の深淵を垣間見た稀な人々 = 2-2 = 第 532号

 外務事務次官松永信雄は、気鋭のペルシャ語の

専門官をテヘランに次々に送り込み、長期的

な視点からイラン社会にどっしりと根に

下ろした人脈の開拓にあたらせた。

 このとき播いたペルシャの香り米の種子は、

やがてほのかな芳香を放って、日本の対

イラン外交に豊穣な秋をもたらす

ことになる。

 テヘランにおける日本の情報活動の成果は、

ペルシャ語の専門官たちによる、地を這う

ような努力の末に得られたものだった。

 イラン側の安易な情報提供に

頼った事実はない。

 ある者はこつこつと積み上げられた人脈から、

ある者は自らの足で、またある者は全くの

偶然から重要情報をキャッチした。

 同盟国日本への「内報」。

 「内報」は、しばしば国家間の関係

を映し出す鏡となる。

 国策上の重大な決定を、公表前にどのような

タイミングを選んで関係諸国に通報するか。

 そこには「内報の国際政治学」とでも

いうべき法則がある。

 重要な同盟国には、外交ルートを通じて、決定が

いち早く極秘裏に伝えられる

 だが、たとえ同盟国であっても、微妙に利害が

絡む国に対しては、その骨子だけが発表

直前に伝達されることが多い。

 外交に果たす公電の存在には、部外者の

想像を超える重みがある。

 外交論の優れた古典として知られる『外交』のなかで、

ハロルド・ニコルソンは、外交交渉を担う者に求め

られる要件のひとつに、正確さをあげている。

 素人外交官の口頭による約束に比べて、職業外交官は

若き随員時代から「正確であれ」という原則に厳しく

訓練されているため、まず文書によって

合意に正確を期す

 あるベテラン交渉官は後輩たちに

次のように語っている。

 「国際的な落としどころ国内的な落としどころ

一致点を見極めるのは、至難なことだ。

 外国との交渉だけをやってきた者、またドメス

ティックな取りまとめだけをやってきた者

には、そうした仕事は到底為し得ない。

 この困難な任務をどうのようにして

乗り越えていくのか。

 諸君は日々の業務のなかから学び取ってほしい」

 国内の複雑な利害調整に血を吐くような思いを

したことのない者には、外国との交渉で本当に

国益に沿った決着を図ることができない。

 その一方で、外国との交渉の任にあたって、退路

を断たれるような辛い思いを味わったことのない

には、人々の納得を得る妥協策を国内で

見出すこともまた難しい。

 二元外交は、漆黒の夜空に打ち上げられる

花火に似ている。

 それは、一瞬の間、大輪を広げて華麗に輝くが、

同時に地上の現実を照らし出してしまう

 そして結局は、外部に自国陣営の

脆さと醜さを露呈する。

 「戦争は同盟の墓場だ」英国外交官にして詩人でも

ある友人が語った言葉を私は今も忘れない。

 「試練を経た友情のみが真の友情だ」と語ったのは

周恩来だったが、日米同盟はまったく

試練のなかにあった。

 先の大戦を英米同盟の執行役として戦い、引退した

ある老外交官は、午餐の席で若き

外交官にこう諭した。

 「同盟関係とは苛烈なものだ。

 わが英国が米国と同盟の契りを結んでしまった以上、

いかなることがあっても、君たちは米国を

支持せざるを得ないのだ。

 そこに外交上の選択などありはしない。

 常にイエスと言い続けること。

 それが君たちの職務であり、義務なのだ。

 外に向かっては、あたかも同盟国米国の前に立ち

はだかって諫言し、時に彼らの要求を拒んで

いるように振る舞って見せなければならぬ。

 そうすることによってのみ、英国民の間にわだ

かまる屈辱感をいささか払拭しうるのだ。

 そして、同盟は辛くもその命を永らえる

ことができる。

 同盟関係とは、キュー・ガーデンの温室に咲く

古代の蓮のように脆いものなのだ

 戦争は同盟に潜む矛盾を一挙に噴出させる。

 湾岸戦争もまた、日米同盟の最も柔らかい

脇腹を直撃したのだった。

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 今回も最後までお読みくださり、ありがとう

             ございました。 感謝!

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