僕はその人の心を変えようと思って.言葉を発したわけではない 第 697 号

 何気なく発した言葉が時に相手の人生を

大きく変えることがあります。

 臨床心理士として多くの人たちの悩みに

耳を傾けてきた皆藤章さんが体験された

感動的なお話を紹介します。

   ──『致知』2016年10月号特集より

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 10年ほど前のことですが、ある医者から

「カウンセリングをしてほしい」と患者

さんを紹介されまして、その女性は

がんを患っていて治る見込み

がありませんでした。

 だから自分は何でこんな苦しい

思いをしなければいけないの

、という思いが強い

 それにまだ二十代だったので、周りの人を

見ると皆が健康そうに見えるのが余計に

辛くて、誰とも交わることなく自分

の殻に閉じこもっていたんですよ。

 彼女とは一回だけの出会いで、50分間

のカウンセリングでしたが、そういう

状態だったのでほとんど何も

お話しされません。

 ただ、こちらが尋ねたことには、時々

答えてくれたりする程度で時間が

きて、病院に戻っていかれた。

 そうしたら翌日、その医者からメールが

来て、「あの患者さんは先生と会われ

てから、ものすごく変わりました。

 とても前向きに私たちに話をしてくれて、

頼ってくれるようになりました。

 先生は一体どんな魔法を使われたので

しょうか」と書かれてありました。

 僕はただ話を聞いていただけで、

理由がよく分からない。

 でも何かが起こったことは確かですから、

僕もその理由をすごく知りたかったの

ですが、遠隔地におられた方だった

のでそう簡単には会えなかったんです。

 ところがそれから一年経って、ようやく

彼女と会える機会がありましてね。

 その一年間、彼女は残り少ない命を

懸命に生きていたんですよ。

 それで僕は彼女にどうしても聞きた

かったことを聞いてみました。

 「あの時、何が起こったのですか」と。

 たった一回のカウンセリングで、人が

正反対に変わるなんてことは、僕の

経験上まずないことでしたから。

 すると彼女はこう答えました。

 「それは先生の言葉です」と。

 ところが僕はもう何を言ったか忘れて

いるわけですよ。それで「何を言った

のかな」と聞いたら、「先生はあの

時、そうか、あんたはそんなに

辛い病を抱えて、いままで

一人で生きてきたんやな、

と言われました」と答えてくれました。

 彼女はこうも言いました。

 「これまで家族や他の誰にも分かってもら

えなかったことを、初めて会った他人の

先生が、一人苦しみを抱えて生きて

きた私のことを分かってくださった。

 そういう人が世の中にいるんだったら、

もっと人を頼ってもいいのではないか

と思うようになりました」と。

 僕は彼女にかけた言葉を全く

覚えていませんでした。

 きっと何気なくかけた言葉

だったと思うんです。

 ただこの時勉強になったのは、僕はその

人の心を変えようと思って言葉を発した

わけではないということでした。

 患者さんの姿をみて、ごく自然にそういう

言葉が口をついて出てきたんですよ。

 ところが僕の何気ない言葉

が彼女の心に届いた。

 それによって彼女は自動詞の

人生を歩み始めたのです。

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あなたの心を磨く糧となる『致知』
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今回も最後までお読みくださり、ありがとう

             ございました。感謝!

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